LOGIN≪ルイーズ視点≫
や、やってしまった。どうしよう、もう取り返しがつかないよ。いつか自分でもやらかしてしまうかと思っていたけど、ついにヴィクトルの顔を殴ってしまうとは。
しかも、綺麗な顔面ストレートを決めるだなんて。二発決めちゃったよ、どうしよう。
このパーティーが始まる前の書類仕事による疲労ですべてを投げ出したいと思っていた私に予想できただろうか、いや、できない。
「ひ、ば、化け物」
「王子をあんなに容赦なく殴るなんて。何をしていたらできるんだろうな。」当たり前のことかもしれないけど、周囲から刺さる視線がとても痛い。恐怖する者が多くを占めているけど、令嬢の何人かは眉をひそめているわね。
「暴力に走って下品ですこと。私たちには到底できない真似ですわね」
「やはり、エキャルラットの者たちはみな野蛮なのね」彼女たちの視線の意味はよく分かる。上位貴族とはいえ、一介の貴族令嬢がどんな理由であれ王子を殴ったもの。不快なものを見るような視線を向けたくもなるわ。
でも、私は私のした選択を別に後悔していない。それどころかむしろ、考えうる中で一番ましだった結果だと思える。
あの時、ジョセフが――私の弟が理不尽な理由で、国外追放だなんて過分な処分を下されるのはどうしても耐えられなかった。
タイミングよく国王陛下がいらっしゃらなかったら、多分もっと過激な手段を用いてしまっていたのだろう。
そして、本当に国外追放あるいは極刑に処されてしまうだろう。
そう考えるだけで本当に寒気がする。私の人生を棒に振るのは構わないけど、家族の人生まで棒に振るのは嫌だ。
「お、お前父上がいくら許可したからと言って無礼だぞ!やはり、お前のような奴はこの国にはおけない。え、衛兵、この女をつまみ出せ」
「し、しかし、ヴィクトル殿下……」衛兵が私に震えながら近づこうとするが、彼らの動きはのろまでキレがない。故に避けることなど、私にとって造作もないのだ。そもそも、ほとんどの衛兵たちは棒立ちのままだし。
「な、なぜ動かぬのだ。こののろまどもが……!」
「殿下、今ここにいる人間の中で一番偉いのはあなたではなくてよ。その人間が沈黙を保っているのだというのに、衛兵がろくに動けるわけないでしょ?」その証拠にほら、小刻みに震えながらも頷く衛兵が何人もいるでしょう?
国王もため息を吐いて、ヴィクトルから視線を逸らしている。国王陛下、あなたにガツンと言ってもらわないと困りますよ。
全く、ヴィクトルはどこまで自分の思い通りになると思っているんだ。
こういうわがままで人の都合を考えないところはあの母親と本当にそっくりだ。昔はまだ気遣ってくれる時もあったんだけどな……。
でも、昔から書類は押し付けていたか。「そうだ、ルイーズ嬢の言うとおりだな。そこにいる衛兵たちは国王である私の配下にあるものだ。それを一王子であるお前が勝手に利用していいわけではない。」
国王陛下は苦虫を嚙んだように表情を険しくしながら低く呟く。
その声色にはヴィクトルに対する失望がこもっていた。「し、しかしあの野蛮な女は容赦なく私を殴ったのですよ。きっと、あいつの心は狂気に染まっているのです!」
ヴィクトルの悲痛な叫びに共感して、私を罵る声が耳に入ってくる。
少なくない、小さいけれどその耳障りの悪い声が心を蝕ませる。王子の婚約者として大人しくしているのもダメ。本来の性分である苛烈な性格を出すのもダメ。
全てがダメなら私はどうするのが正解だったの?
「ふっ、そんな泣きそうな顔をして同情を誘おうとしても無駄だ。おとなしく俺に従っていればよかったものを」
握る拳に悔しさのあまり力が入る。心なしか視界も少しうるんできたような。
あぁ、ダメよ、ルイーズ。こんな敵だらけのところで弱みを出しちゃ。
ここには父も母も弟もいない。味方はいないのよ。
「……レディ、そんなにも強く手を握っていたら怪我をしてしまいますよ。握るのならこちらのハンカチを握ってください」
俯いていた私が顔をあげると、そこには冬が似合う男が目の前に立っていた。
雪のように眩い白銀の髪に、冬の青空で染め上げられた瞳。透き通るような白い肌を持つ男。
一見冷酷そうに見える彼からは想像ができない低く穏やかなテノールの声がする。
「リュミエール国王、貴様の息子も随分と堕ちたものだな。レディには優しくするように教育はしなかったのか?」
私を気遣うように話していた時とは違い、殺気すらも感じられるような重厚感のある声で男は国王にくぎを刺す。
ヴィクトルを一瞥して鼻で笑うのも追加して。
彼が放った言葉はギャラリーにも影響を与え、私を罵る声が止む。
この男、どこかで見たことがあるような……。
どこで見たんだっけ?
「な、なぜ初対面で俺が笑われねばならぬのだ。そもそも貴様、我が国の貴族ではないな?どこの者なのかを答えよ。」
ヴィクトルってば、本当にどこまで阿呆なのだろう。
明らかにその口調で聞いて言い訳がない。その証拠に男は愉快とばかりに笑っていたのが、表情がごっそり抜け落ちたような仮面のような顔をしている。
美人の真顔は怖いとはよく言うが、本当に恐ろしいな。
あ、この表情で思いだした。
でも、もし私の思う人物だったらこの状況は相当まずくはないか。「ほう、俺が即位する時は随分と暴れまわったものだが、まさか俺のことを知らぬとは……。愚かさもここまで来ると笑えてくるな」
「だ、誰がおろかだと!」あぁ、やっぱりそうだ。
この男、『冷血皇帝』と言われる隣国の皇帝、イヴァン・キリーロヴィッチ・ヴォルコフだ。皇帝に即位する時に、父親の時の配下だった貴族を皆殺しにしたという話が合ったりなかったり。
それが真実かどうかは不明だが、どちらにせよ冷酷無比な性格だから気を付けろって、父が言っていたのを思い出す。
あの時は話半分にしか聞いていなかったけど、まさかこんなところで思いだすとは。
一国の王子が、皇帝のしかも隣国の頂点に君臨する男を知らないのはかなりまずいんじゃないか?
魔法で調整されているから会場は暑くも寒くもないはずなのに、鳥肌が立つ。
「まぁ、良い。貴様に俺は微塵も興味がないからな。それよりも、ルイーズと言ったか」
「は、はい。ルイーズ・エキャルラットと申します」男はつまらぬものを見たようにヴィクトルから視線を逸らすと、改めて私に視線を向ける。
国王やヴィクトルを見ていたような冷酷な目ではなく、それよりも何倍も優しい視線を。
そういえば、さっきから彼のハンカチを握っているわよね、私。
しかも、手には血がついていたから必然的にハンカチにも血がついてしまった。あ、私本当に終わったのかな。
お母さま、お父さま、そしてジョセフ。先立つ私の不幸をお許しください。
冷や汗がだらだらと流れて止まらない。ドレスの裾を持つ手も微かに震えてしまう。
それでも、平常心を何とか保たないと。
「そこの王子、お前はこのエキャルラット嬢と婚約破棄をしたんだな?」
「そ、その通りだ。そんな野蛮な女二度と見たくもない」ヴィクトルがはっきりとそう言ったのを見て男はにやりと口角をあげる。
彼は私に振り返り、跪く。割れ物を扱うように丁寧に私の手を彼の上に乗せたかと思うと、そこに口づけをする。
「ルイーズ・エキャルラット嬢、私と共に我が国フリーギドゥム帝国に来てもらえるか?」
男は確かにそう言った。私のすべてが愛おしいとでも言わんばかりの笑みを浮かべて。
あぁ、本当に馬鹿な人たち。ここが何家の家か存じ上げていないのかしら? 王妃は随分と箱入りに育てられていたみたいだけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった。いっそ、憐みも感じてくるわ。 「み~つけた♪ 隠れられると思ったら大間違いですよ?」「な、どうしてここに?! さっきまで、自室にいたはずじゃないのか!」 私が庭の茂みからひょいッと顔を出すと、お化けでも見たような顔で逃げ出そうとする衛兵たち。本当に耐え性がないわね。 あなたたちいつも魔物と戦っているのでしょう? 貴族の小娘を見ただけで泣くなんて軟弱すぎる。 そんなに泣くほど私が怖かったのだろうか? 逃げ出したものの中には――お漏らしをした者もいる。 ちょっとやめてよ、不法侵入しておいて人の庭先を汚すだなんて。「で、でも、無防備な姿で一人、のこのこと出てきたのは俺たちにとって好都合だ!」「あぁ、そうだな。なんて言ったって相手は一人だ。どうにでもなる。」 随分と舐められたものね。彼らは知らないのかしら? 私が卒業パーティーで王子に顔面ストレートを決めたこと。 そして、私が『社畜令嬢』以外にも二つ名を持っていること。 まぁ、生まれたての小鹿みたいにプルプルと震えているところを見る限り知らないわけじゃなさそうだけど。「王妃の可愛い可愛い兵隊さん。悪いことは言いません。早急にこの屋敷から出ていくことをお勧めします。皆さんが今やっていることは不法侵入ですよ~」 私はできるだけ殺気を抑えながら、子を諭すよう彼らに穏やかに告げる。 これで去ってくれるのが一番いいのだけれど。「へ、なんでお前の言うことを聞かねばならないんだ」「そうだ、傲慢なことを言っているみたいだが、俺たちにお前は手を出せないはずだ!」 やっぱり、こう言ってもダメだったみたい。 なんとなく予想で来ていたから、残念だなんて思わないけど。 さっきまでびくびく震えていた癖に、今はもうふんぞり返る余裕まで出てきている
そう胸を張っても、一つ重要な問題があることを思いだす。 他にも問題は山積みだけど、彼とどうこうするうえで重要な問題だ。 私、ルイーズ・エキャルラット、上流とは言え一介の貴族令嬢。 彼、イヴァン・キリーロヴィッチ・ヴォルコフ、私にとって異国の皇帝。 そう簡単に連絡が取れるわけないし、連絡手段が分からない。『また、会いましょう』って言っていたから、会う意思があるのはよく分かる。 でも、どこに行けば会えるって言うんだ。「エキャルラット嬢、今お時間はございますか?」 どこか聞き覚えのある声が窓の外から聞こえるような……。気のせいよね? でも、確かに窓のガラスはノックするリズムと同じタイミングで揺れているから、外に誰かいるのは間違いない。 まさか敵襲?!……なわけないよね。もしそうだったとしたら、片腹痛いわ。 敵陣にノックするなんてどれだけ余裕なの?ってツッコみたくなる。 でも、煽り目的だってこともあり得るから、警戒しておくに越したことないか。「あら、あなたはヴォルコフ閣下の馬車に乗っていた……」「覚えていらっしゃったのですか?それに今はこのような鳥の姿でも分かるのですね。」 「今日会ったばかりではないですか。そんな簡単に人のことを忘れることはありませんよ。確か、あなたはルカさんでしたか?」 恐る恐る窓を開けると、そこには夜と同化しそうなほど黒いカラスが一羽。 そのくちばしから出る声は間抜けた鳴き声ではなく、成人男性の落ち着いた声そのものだ。 「あっておりますよ。私のことを見つめてどうかなさいましたか?」 憑いているって感じはしないし、なにか特別な種の鳥には見えない。 と言うことは……「変化魔法《トランス》ですよね?精度が高くて羨ましいと思って。」「ありがとうございます。おっしゃる通り、変化魔法《トランス》で
「はぁ、渇望ね……」 部屋の中に戻り、ろくに着替えもしないまま、ベッドの上で寝そべりながらイヴァンに言われたことを思いだす。 渇望とはいっても、色々な種類があるわよね? 好きな人に愛されたいとか、お金持ちになりたいだとか。 でもきっと彼が言いたいことはそういうことじゃないし、私自身もそうとは思わない。 現にヴィクトルに婚約破棄された今も、悲しいという負の感情よりも『これからどうしよう』と言った戸惑いの方が強い。「姉さん、帰ってきているのか? いるなら返事をしてくれ」 ドアをノックする音で思考の海から急激に意識が現実へと引き戻される。「入ってもいいわよ。……あら、ジョセフ。あなたまだ顔赤いじゃない。熱は下がっているみたいだけど」 とっ散らかった部屋を適度に整頓してドアを開けるとそこには弟であるジョセフが立っていた。 彼の頬は赤く、熱にでも浮かされているのか心なしかぼんやりとしている。 こんな状態で私の部屋にまで来たのか。歩いてくるのだけでも辛かっただろうに。 とりあえず、部屋の中にある椅子に座らせる。 ドアの前にいた時よりも表情は険しいものではなくなっている。「ジョセフ……」「もう、大丈夫だ。それよりも姉さん、ごめん。俺、あのバカ王子止められなかった。婚約破棄なんて姉さんの顔に泥を塗るような真似をするほど愚かだなんて」 風邪を引いて今日のパーティーを欠席したジョセフにも情報は行っていたのか、がっくしと言わんばかりに頭を下げる。 元から真面目過ぎるというか、マメな性格ゆえに情報を重くとらえてしまうことが多い。 しかし、今の狼狽具合は凄まじいものだと思う。 やっぱり風邪を引いてしまっているのが余計にそうさせてしまっている。 多分生半可なことを言っても絶対に引き下がらないからな。 こういう手段を使うのはあまりよくないけど仕方がない。「顔をあげなさい、ジョセフ。あなたがあの男に関して謝る必要はない。謝るならこっちの方よ。――だって、私殿下のことをぶん殴ってしまったもの」 淡々と彼に告げると、天を仰ぎ見るようにため息をつく。 本当はこんな励ましの中で、言うつもりは全くなかった。 でも、仕方がないのだ。 きっとあのまま曖昧な態度でジョセフに何か言っても顔をあげることはない。 頑固なジョセフのことだ。 このままでは
なぜ、今私は馬車に揺られているのだろうか……。 しかも、先ほど求婚してきたフリーギドゥム皇帝、イヴァンの馬車だ。 彼に求婚されてからしばらくの記憶がない。 しばらくと言っても、ここ一時間か二時間ぐらいのことだけど。 何か変なこと、起こっていないよね? 「緊張でもしているのか?何、そう縮こまる必要はない。俺の隣にでも来るか?」「いいです。ただでさえ、馬車に乗せてもらっているのだから。そこまで甘えることはできません」「そうか……」って捨てられた子犬のように肩を落としているがそんなに悲しかったのか? 彼が自分自身の馬車なんだから、自由に過ごすのはよくわかる。 でも、私は乗せてもらっている立場なんだからそんな失礼なことできるわけない。 そもそも、異国の皇帝と馬車に揺られているという異常な状況で安らぐことなどできるわけがない。 ましてや、『冷血皇帝』と恐れられる男の馬車なのだ。 何か粗相があったとしたら、今度こそ私の人生は終了するだろう。「わ、分かりましたわ。少しはしたないですが、足を伸ばしてもいいですか?」「あぁ、別に作法とかを俺は気にせぬ。古臭い慣習などあったって無駄だからな」 窓の外を懐かしむように見つめながら、そう零す彼はとても冷酷には見えない。 本当に彼は『血も涙もない冷酷さ』を持つとされる男なのだろうか?「俺をそんなに熱烈に見つめてどうした?」 き、気づかれていた。 ただ何となく目の前の彼が気になってしまったから、見ていただけだけど。しかも、熱烈だなんて。 私、そんなに彼を真剣に見ていたの? そんな不毛なことを考えながら恐る恐る足を伸ばす。 足が向かい側に座る彼の横に当たらないのか不安だったけど、全然大丈夫みたいね。 今日はヒールを履きっぱなしだったし、少し足が疲れたからもう少し伸ばそう。「そういえば、レディはエキャルラット家の
≪ルイーズ視点≫ や、やってしまった。どうしよう、もう取り返しがつかないよ。 いつか自分でもやらかしてしまうかと思っていたけど、ついにヴィクトルの顔を殴ってしまうとは。 しかも、綺麗な顔面ストレートを決めるだなんて。二発決めちゃったよ、どうしよう。 このパーティーが始まる前の書類仕事による疲労ですべてを投げ出したいと思っていた私に予想できただろうか、いや、できない。「ひ、ば、化け物」 「王子をあんなに容赦なく殴るなんて。何をしていたらできるんだろうな。」 当たり前のことかもしれないけど、周囲から刺さる視線がとても痛い。恐怖する者が多くを占めているけど、令嬢の何人かは眉をひそめているわね。「暴力に走って下品ですこと。私たちには到底できない真似ですわね」 「やはり、エキャルラットの者たちはみな野蛮なのね」 彼女たちの視線の意味はよく分かる。上位貴族とはいえ、一介の貴族令嬢がどんな理由であれ王子を殴ったもの。不快なものを見るような視線を向けたくもなるわ。 でも、私は私のした選択を別に後悔していない。それどころかむしろ、考えうる中で一番ましだった結果だと思える。 あの時、ジョセフが――私の弟が理不尽な理由で、国外追放だなんて過分な処分を下されるのはどうしても耐えられなかった。 タイミングよく国王陛下がいらっしゃらなかったら、多分もっと過激な手段を用いてしまっていたのだろう。 そして、本当に国外追放あるいは極刑に処されてしまうだろう。 そう考えるだけで本当に寒気がする。私の人生を棒に振るのは構わないけど、家族の人生まで棒に振るのは嫌だ。「お、お前父上がいくら許可したからと言って無礼だぞ!やはり、お前のような奴はこの国にはおけない。え、衛兵、この女をつまみ出せ」 「し、しかし、ヴィクトル殿下……」 衛兵が私に震えながら近づこうとするが、彼らの動きはのろまでキレがない。故に避けることなど、私にとって造作もないのだ。そもそも、ほとんどの衛兵たちは棒立ちのままだし。「な、なぜ動かぬのだ。こののろまどもが……!」 「殿下、今ここにいる人間の中で一番偉いのはあなたではなくてよ。その人間が沈黙を保っているのだというのに、衛兵がろくに動けるわけないでしょ?」 その証拠にほら、小刻みに震えながらも頷く衛兵が何人もいるでしょう? 国王もため息
「ああ、うるさいうるさいぞルイーズ。貴様は俺を怒らせるようなことしか言わない。おい、誰かこいつをつまみ出せ! こんなやつ国外追放にしてやる!」 ついに本格的に癇癪を起こしたヴィクトルは越えてはならない一線を越えてしまった。 国外追放、それは王国の中にある刑罰の中でも最も重い罰。それを一人の癇癪ごときで下そうとしているのだ。 会場はさらに緊張が高まり、ピリついた空気が広がる。みなが息をひそめる中、ルイーズは変わらず堂々と前に出た。「ヴィクトル殿下、ご自分がどんな発言をしているのかよく分かっているのですか?」 眉間にしわを寄せながらその笑みは崩さないルイーズ。しかし、彼女の問う声は低く、そこには確かに怒りが込められている。「なぜ俺がそのようなことを考える必要がある。全く、本当に姉弟揃って口うるさいところはそっくりだな。あぁ、弟も追放するか。あいつも目障りだからな」 その時、確かにルイーズの中で何かが切れる音がした。 会場のざわめきはさらに高まりをみせる。ヴィクトルの横暴さに眉を潜めるものがほとんどだが、一部だけ顔を青くする。 一部は気づいているのだ。ルイーズの様子が明確に変化していることに。 ミシミシとルイーズの持つ扇子が音を立てて今にも割れそうになっている。 それに気づかぬ者は表立って感情の変化を見せないルイーズを冷酷だと思い、近くにいる者とひそやかに非難する。「本当にあなたはいつまでもおんぶにだっこで子供みたいなお方ですこと」 兵士たちの手がルイーズの身柄を拘束しようと伸ばされる。しかし、その腕はついぞ届くことはない。「これはいったいどう言うことだ、ヴィクトル」 威厳のある低い声でそう問いかけるのはこの国の国王である。 さすがのヴィクトルも国王を前にして横柄に言葉を発することはない。「そ、それはルイーズが……」「ほう、この騒ぎルイーズ嬢も関係しているのか。お前に聞くよりも彼女に聞く方がよさそうだ」 先程の態度はどこに言ったのか小動物のように縮こまるヴィクトルはうまく言葉を紡げない。 物言えぬ息子を無視してルイーズに振り替える。国王はルイーズの様子に一つため息をつく。ルイーズは笑みは浮かべているものの内側に宿る怒りを隠しきれていないのだ。 「ルイーズ嬢、主でよければ私にこの騒ぎの全容を報告せよ」「御意にございます。この







